研究内容 / Research
効率と利便性を追求してきた前世紀の負債である環境問題を解決していくことは、今世紀以降の科学・技術の課題であると考えます。目下の課題は二酸化炭素排出量の削減、脱炭素化でしょう。微生物細胞を利用するバイオテクノロジーは二酸化炭素排出の少ないクリーンな印象がありますが、必ずしもそうではありません。私達は、真に環境問題の解決に資するバイオテクノロジーの開発を目指し、微生物工学・遺伝子工学・タンパク質工学を駆使した合成生物学研究を推進します。現在取り組んでいる研究テーマは以下になります。
■ 新しいゲノム操作技術の開発
バイオ産業に活用されている生物のゲノム配列を、細胞機能を最大限に発揮するように設計されたゲノム配列へと書き換えることができれば、製品の製造・精製に係るエネルギーを大幅削減でき、脱炭素化に貢献することができます。これを実現する技術としてゲノム編集は重要視されていますが、既存技術は遺伝子破壊の効率は高いものの、望みの配列へと書き換える効率は十分とは言えません。私達は、細菌の持つリピート配列の安定化機構に着目して、新しいゲノム操作技術の開発を目指しています。これまで細菌のリピート配列が関わる生体分子からは、制限酵素・TALEN・CRISPR-Cas9といった生命科学とバイオテクノロジーを支える技術が産み出されています。当該分野を革新する新技術も細菌のリピート配列を取り巻く生物機能から開発されることでしょう。
■ ファイバータンパク質の分子紡績
脱炭素化社会の実現に向けて、原料を石油に依存しないタンパク質性繊維が注目を集めています。合成生物学の発展に伴い、繊維状タンパク質を大量に微生物生産できるようになってきたことも注目されている要因の一つです。私達は、独自に発見したナノファイバータンパク質を微生物細胞内で大量に得ることに成功しています。本研究テーマでは、これをつなぎ合わせて繊維状にする技術の開発を目指しています。すなわち、短い繊維を撚り合わせて長い糸にする紡績の如く、ナノファイバータンパク質を分子紡績することを目指しています。
■ 高速増殖細菌の実験自動化
現在の生命科学研究とバイオテクノロジーでは、DNAコンストラクトの構築とタンパク質生産の工場として大腸菌が活用されています。大腸菌はわずか20分で2倍に増えることから、短期間に多くの試行を行うことができます。そのため、大腸菌はバイオ研究者・技術者に長らく愛用されてきましたが、バイオ関連試薬・機器の充実、DNA合成の自動化、流通の高速化により、むしろ大腸菌の増殖を待つ時間が研究・開発の律速となってきています。では、大腸菌よりも早く増殖する細菌を利用しようという発想が浮びますが、そこまで話は単純ではありません。大腸菌の増殖速度は私達の生活サイクルにフィットしてしまっているのです。大腸菌は、夕方の帰り際に育て始めれば、翌日朝には丁度よい数に増えています。しかし大腸菌よりも増殖の早い細菌の場合は、夕方に育て始めると深夜もしくは翌日早朝に丁度よい数になるため、回収する実験者・作業者にとって負担となります。そこで、私達は大腸菌よりも増殖速度の早い細菌(高速増殖細菌)を用いた実験を機械化・自動化することにより、実験者・作業者に負担をかけることなく生命科学とバイオテクノロジー研究を加速させることを目指します。
共同研究先 / Collaboration
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名古屋大学大学院工学研究科生命分子工学専攻
堀研究室 堀克敏教授 吉本将悟助教 -
九州大学大学院工学研究院応用化学部門 分子教室
後藤・神谷研究室 神谷典穂教授,南畑孝介助教 -
産業技術総合研究所 人工知能研究センター オーミクス情報研究チーム 堀之内貴明主任研究員
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東京海洋大学学術研究院 ゲノム科学研究室
小祝敬一郎助教